森の秘密基地

音楽に関することをだらだらと綴っています。

Phantom Fx Fluid レビュー

約1ヶ月ぶりのエフェクターレビューでございます。

皆さんこんにちは、Billです。

とんでもないペダルが我が家にやって来ました…

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(コントロール類は左からLevel、Tone、Gain)

Phantom FxのFluidでございます。

エフェクターマニアの方ならご存知でしょう。ギタリストの戸高賢史さんがかつて運営していた、日本におけるハンドメイドエフェクターブームの火付け役の一つとなったエフェクターブランド「Phantom Fx」、その中でもかなり初期の頃からラインナップされていたオーバードライブの「Fluid」の初期型を手に入れてしまいました…!!!

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(衝撃のシリアルナンバー。戸高さんのサインがカッコいい。)

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このペダル、なんとありがたいことにツイッターのフォロワーさんから譲って頂いたペダルなんです。まさかこんなレアなペダルと出会える縁に恵まれるとは夢にも思っていませんでした。その節は本当にありがとうございました……

で、実はこの個体、ただ初期型というだけには留まらない、ある種のストーリーをもったペダルでした。

この味のある赤色の塗装。実はオリジナルでこの赤色なのではなく、元々は他のFluid同様青色の塗装だったそう。どうやらかなり使い込まれた個体のようで、色んな方の手を渡り歩いた末、余程塗装ハゲが酷くなったからなのかどこかのタイミングで元の青い塗装の上にこの赤色がオーバーフィニッシュされているとのこと。

言うなれば、実質的なマルチレイヤー塗装になっている訳です。赤色の塗装の中に所々青色が見えるのはそのためです。
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加えてこの赤色の塗装、クラックやシミが入りやすい塗料を使っているのでしょうか、長年使い込まれたことによるガチのレリック感があり存在感が凄いです…てか、マルチレイヤー塗装にレリック加工って本当はFender Custom Shopとかのお高いギターじゃないとお目にかからない奴だよ…
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(裏蓋はオーバーフィニッシュされてないのでペダル全体ではこんなにポップなカラーリング。可愛い。)

ではここからやっと音のレビューに入っていきましょう笑。僕は塗装の話だけでどれだけ喋るつもりなんだ………

 

端的に音を言い表すなら、「シンプルな良いTS系」と言えると思います。TSの本来の抜けるミドル、音の温かみ、分離感はそのままに、LEDクリッピング由来のカッコいいハイゲインまで対応可能な非常にクオリティの高いペダルだと思いました。

 

今回のポイントは3つ。

①回路構成はシンプルながら拘りが詰まったパーツ構成。

②コントロール幅も広く扱いやすい。

③音のチューニングが絶妙。

 

①これに関しては内部を見ると分かりやすいと思います。

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(中身ぱかーん。)

トランスペアレント系に代表される現代的なTS系にありがちなバッファレスでもなく、LandgraffのDODのようなクリッピング切り替えも用意せずあくまでLEDクリッピングのみを採用した、オーソドックスなマーシャルオマージュのTS系オーバードライブと言えるかと思います。ある意味、ハンドメイドエフェクターの先駆けらしいシンプルな設計だと感じました。

そして、パーツ面では戸高さんの拘りが色濃く垣間見えます。分かりやすいところで言うと、電解コンデンサには音響用として有名なELNAのものを、オペアンプにはRaytheon社のビンテージRC4558Dを使っているようです。加えて、抵抗も要所要所でかなり使い分けていて、カーボンコンポジット抵抗(Allen Bradleyでしょうか?)や金属皮膜抵抗をバランス良く用いている印象です。この辺りの拘りが音の温かみと分離感の良いバランスを生み出しているように思いました。

 

②次に、このFluid、ボリューム、トーン、ゲイン、全てのコントロールの効きがとても良いという点が大きな特徴です。

まず、LEDクリッピングを用いている事からも分かる通りゲインに関してはかなりハイゲインまで対応しています。その一方で、個人的にはローゲインも非常に好きでした。TS的なミドル成分も持ちながらも分離感が良く、ギターボリュームへの反応性も高いので所謂かけっぱなしのプリアンプとしても全然ありだと思いました。

加えて、トーンコントロールの効きも絶妙です。フルでも耳に痛くなく、むしろローゲインで使う分にはかなり上げても全然問題ないくらい効きがちょうど良いです。ハイゲインで使う際に耳につくようなら少し下げれば良いだけなので、シンプルかつ非常に扱いやすいトーンだと思います。

また、TS系のペダルだとトーンやゲインの効きは良くてもボリュームはさほど上がらないという事もありますが、Fluidに関してはボリュームをグッと上げればかなり爆音になります笑笑。アンプや他のペダルのブースターとしても十分に良い仕事をしてくれると思いました。

 

③そして最後に、やはりギタリストとして活躍されている方が作っているペダルだけあって元々の音のバランスが非常に整っていると思いました。個人的に、LEDクリッピングのTS系って音作りが難しいと思ってて、正直あまり良いイメージがなかったのですがこのFluidを手にしてその考えが覆されました。

まず、ローゲインでもハイゲインでも音像が崩れる様な事が全くないのが非常に好印象です。特にLEDクリッピングのTS系だと、使用するLEDの選択によってはローゲイン時に音の減退にバリっとした感覚が残るトーンになる場合もあるのですが、その感じも全く見受けられませんでした。恐らくですが、LEDの選定にもかなり力が入っているように思いました。

加えて、TSのDNAをちゃんの残したままハイゲインなマーシャルのイメージを音に落とし込んでいる所にも非常に好感を持ちました。というのも、マーシャルをイメージした歪みペダルの中には、歪ませる際に余計なダブつく低域が残ってしまうようなペダルもあったり、逆に「TSから脱しすぎたTS系」の中では、TSの良さであるミドル成分が減退して、無駄にフルレンジであるが故にアンサンブルで使いづらいペダルも見受けられたりするのですが、このFluidはその辺りの音作りのバランス感覚に非常に優れていて、どんなシチュエーション、使い方でも活躍できるポテンシャルを秘めていると思いました。

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ということで、Phantom FxのFluidのレビューでした。

総じて噂通り、総合的なクオリティがとても高い良質なペダルだと感じました。

あくまでTSの雛形をそのまま用いているペダルなので、いわゆるトランスペアレントで現代的なTS系ペダルやアンプライクなマーシャル系ペダルには属さないでしょう。しかし、戸高さん独自の音のチューニングでもって1つのエフェクターとしてバランス良く仕上げている印象で、その手腕の確かさをまざまざと見せつけられたように思います。ハンドメイドエフェクターブームを牽引したのも納得の出来栄えだと思いました。

あと、裏蓋の日付を見る限りだとこのペダルが作られたのは2009年らしいのですが、10年以上前からここまで拘りの詰まったペダルを作っているアーティストの方がいるという事そのものにとても感慨深くなってしまいます。

ちなみに、現時点(2020年3月現在)ではPhantom Fxは活動を休止していて、Fluidは生産台数は多い方であるにも関わらず中古に出てくる事さえ少なく、他のペダルも含めてPhantom Fxのペダルは軒並み非常にレアなペダルになってしまっているのが現状です。しかし、エフェクター専門店のCULTさんや戸高さんご本人のSNSを見ていると、どうやら再びエフェクターを製作し始めているようです。Fluidはどうかは分かりませんが、何かしらのペダルが再販される可能性もあると思うので、気になった方は戸高さんの今後の動向も要チェックですね(僕もバリバリチェックしてます)。

どなたかの参考になれば幸いです。それでは。